第七回三国志バトルロワイヤル 4
- 1 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:10:08
- ━━━━━説明━━━━━
こちらは三国志世界でバトルロワイアルが開催されたら?というテーマで、
sage進行で進められている、全員参加型リレー小説スレッドです。
参加する三国志武将がお互いに殺しあっていき、生存者一名となったときにゲーム終了となります。
前スレ
http://ex21.2ch.net/test/read.cgi/warhis/1160286832/
感想&質問など、何かあったら雑談スレへ ↓
三国志バトルロワイアル観戦雑談スレ
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/29695/1154600612/
説明は>>2-10のどこかにあります。
たぶん>>2 「アイテムの説明」「首輪の説明」「フィールドの説明」
たぶん>>3 「お願い」
- 2 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:11:07
- ━━━━━アイテムの説明━━━━━
※参加者は、【フィールド略地図】【全参加者名簿】【鉛筆】【水とパン2日分】【懐中電灯】
【腕時計】を基本アイテムとして支給されています。
基本アイテムのレス末表示は特に必要ありません。
※参加者は不確定要素として、通常は単に【アイテム】と呼ばれる武器アイテムを、
各自1つづつ支給されています。支給された武器アイテムの制限はありません。
※参加者は、スタート時には普段着以外の、全ての装備を没収されています。
━━━━━【首輪】の説明━━━━━
※参加者は全員、耐ショック・完全防水の、銀色の【首輪】を付けられています。
※【首輪】には主催者用の、生存判定用高性能心電図・位置確認用発信機・爆殺用高性能爆薬が、
標準装備されています。
※【首輪】は、不正に外ずそうとしたり、禁止エリアに侵入すると爆発し、参加者を死に導きます。
最後の死亡者放送から100レス超過以内に死亡者が無い場合、全員の首輪が爆発します。
(以上の首輪に関しての情報は、参加者にも公開されています。)
━━━━━フィールドの説明━━━━━
※ フィールドは、下記地図を縦30キロ・横20キロ程度の範囲とする、後漢〜晋の支配地域を領域
としたミニミニ中国大陸です。
参考資料 → http://www.geocities.co.jp/Bookend-Hemingway/3952/tizu.html
※ フィールド内の禁止エリアは、およそ300レス毎に1州づつ追加されていきます。
※ フィールド内に参加者以外の人間や、アイテム以外の強力な武器装備は存在しません。
※ 参加者には、『死亡者放送』『禁止エリア放送』のみ公開されます。
- 3 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:11:38
- ━━━━━お願い━━━━━
※ 一旦【死亡確認】表示のなされた死者の復活は認めません。
※ 参加者の死亡があればレス末に、必ず【死亡確認】の表示を行ってください。
※ 又、武器等の所持アイテム、編成変更の表示も、レス末に下記フォーマット、
もしくはリストの形式に従って行ってください。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
@武将名[健康状態に被害があったときにはその状態]【アイテム】
※(状況変更)
例: @司馬懿[左腕怪我・腹痛]【戟、弁当箱、女物の服】
※ 女物の服着用中
≪好敵手/2名≫
張飛【M16サブマシンガン】&馬超【鉄槍】
※ 長安に向かいます
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
※ 新規参加武将は100人に到達後、次の死亡者リスト表示まで登場した者までとします。
※ 複数にわたる話(名前欄に「○/○」記載)は、3時間以内に最後まで連続で書き込んでください。
※ 本スレは800レスまたは480KB になると書き込みを中止して引っ越します。
※ 最低限のマナーは守るようお願いします。※
★出されたご飯は残さず食べる。
(新しいお話を書く方は前からのお話を読んで無理のない設定にして下さい)
★転んでも泣かない。
(お気に入りのキャラが思わぬ展開になっても気持を切替えて次に進みましょう)
★おいらのギャグには大爆笑する。
(いろんなネタが出てきても、なるべくおおらかな気持で見てあげましょう)
- 4 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:13:37
- ━━━━━前スレまでの参加者情報━━━━━
※前回放送以降の変更点が含まれています。
(現在最後の放送は4日目真夜中です。)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【生存者・パーティの部】
<<親子の面影+水鏡門下生/4名>>
蔡文姫【塩胡椒入り麻袋×5】
劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】
諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
<<不品行と品行方正と忘れ形見/3名>>
郭嘉[左脇腹負傷]【閃光弾×1】
陳羣【光学迷彩スーツ(故障中)、吹毛剣】
曹幹[睡眠中、失声症]【なし】
<<迷走する捜索隊/3名>>
袁紹【妖刀村正】
曹彰【双剣の片方(やや刃こぼれ)、ごむ風船】
魯粛【圧切長谷部】
<<既視感を追う遊撃隊/3名>>
凌統【銃剣、犬の母子】
馬謖 [軽症(時々めまい・貧血状態に)]【魔法のステッキミョルニル(ひび入り)、探知機、諸葛亮の書き付け(未開封美品)×3】
陸遜【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×3)、ジッポライター】
<<楊儀くんと子義マンセー/3名>>
太史慈[スタンド使い]【ジョジョの奇妙な冒険全巻】
李典【SPAS12】
楊儀[ちょっと欝]【MDウォークマン】
- 5 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:14:09
- << ふたりの詩人とひとりのアモー/3名>>
曹操[高熱、意識混濁]【チロルチョコ(残り65個)】
陸機【液体ムヒ】
呂蒙【捻りはちまき】
<<皇帝とナース/2名>>
劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、救急箱、閃光弾×2】
趙雲【ナース服、化粧品】
<<どさくさまぎれに姫と騎士/2名>>
魏延【ハルバード(少々溶解)、鳥のヒナ(5羽)】
孫尚香[切り傷]【シャンプー(残り26回分)、薬草、ちろるちょこきなこ味】
- 6 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:14:44
- 【生存者・ピンユニットの部】
@夏侯惇【金属バット、大斧】
@祝融【偽造トカレフ、刺身包丁】
@曹熊[錯乱]【ベレッタM92F、PSP】
@劉備【李典棍、塩胡椒入り麻袋×5】
@荀イク[洗脳されている?、額に切り傷]
【ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)、防弾チョッキ、日本刀、偽造トカレフ、空き箱】
@潘璋[右腕に深い傷]【備前長船】
@関羽[全身打撲(治癒中)]【方天画戟、猛毒付き諸葛弩(残り矢17本)・手榴弾×3】
@張飛[腹部強打、激しい疲労]【鉈】
@甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】
@張遼[爆睡中]【歯翼月牙刀、山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3】
@司馬懿【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、陳宮の鞄、阿会喃の鞄、DEATH NOTE】
@諸葛瑾[頭にたんこぶ、移動速度低下]【ドラグノフ・スナイパーライフル、デリンジャー、首輪解体新書?】
@呂布[洗脳、身体能力上昇]【関羽の青龍偃月刀、DEATH NOTE】
- 7 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:15:15
- 【死亡者】※3-103以降、放送はされていません
≪あ行≫9名
阿会喃 于禁 王平 袁煕 閻行 袁尚 袁術 袁譚 王累
≪か行≫24名(+2)
夏侯楙 賈ク 夏侯淵 華雄 郭 楽進 郭図 夏侯威 夏侯和 夏侯恵
夏侯覇 韓玄 ☆関興 韓遂 顔良 ☆姜維 許チョ 許攸 虞翻 刑道栄
高順 侯選 孔融 胡車児
≪さ行≫20名
司馬孚 朱桓 周瑜 周泰 朱然 朱霊 淳于瓊 荀攸 徐晃 徐庶 辛評
成宜 曹洪
曹仁 曹植 曹丕 沮授 孫堅 孫権 孫策
≪た行≫17名(+1)
張燕 張角 張虎 ☆張コウ 陳到 張横 張繍 張任 貂蝉 陳宮 程銀
禰衡 程普 典韋 田疇 董卓 董超&董衡
≪は行≫6名 (+2)
裴元紹 馬玩 ☆馬岱 馬忠 ☆馬超 文醜
≪ま行≫3名
満寵、孟獲、孟達
≪や行≫2名
楊秋、楊阜
≪ら行≫7名
李堪 李儒 劉璋 劉ェ 廖化 梁興 呂範
- 10 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 15:28:21
- 計89名 死亡確認
■既出登場武将数:125名 残り36名
(パーティの部8組23名、ピンユニットの部13名 計36名 生存確認)
−−−−−−−−−−−−−テンプレここまで−−−−−−−−−−−−−
※前述ですが、参加者には☆付き死亡者の情報はまだ入っていません。
※>>8-9はテンプレではありません
【それでは投稿どうぞ!】
- 11 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/07(土) 16:36:19
- 地図はこちらを参照してください
http://3594br.uijin.com/7th/map1.gif
http://3594br.uijin.com/7th/map2.gif
http://3594br.uijin.com/7th/1.gif(巨大なので注意)
- 14 名前:What is a Pretence? 1/5:2007/04/08(日) 00:27:56
- このMDという音の詰まった平たい板には、一体どのぐらい音を詰めることが出来るんだろう。
透き通った中に銀色の円盤が入っているが、これのどこからどうやって音が出て来るのかすら解らない。
理屈はともあれ、これを今太史慈がぶつぶつ言いながら操作している箱に入れれば、中に入っている音が
聞こえるのだから、とりあえず仕組の事は気にしないようにしよう、と李典は思った。
既に聴いた曲は7つ。
楊儀が疲れ気味なのと、何か役に立つ情報があることを期待して、休みながら小さな板の中身を全部確かめよう、
ということになったのだが、現在判っているのは、少なくとも1枚に7曲以上入っているということだ。
5曲目は、今までとは打って変わってやたら荘厳な曲だった。そして、歌詞の良く判らない曲だった。
今まで聴いた曲も本来知らない言語なのに、楊儀にも李典にもある程度の内容が頭の中に自然と入って来たのだが、
この曲だけは訳が解らなかった。太史慈に聴かせたところ、「汝の敵を愛せよ」という内容だった。
汝の敵、と聞いて、楊儀は魏延を連想した。李典は張遼を連想した。が、すぐに不可解な様子で2人とも首を捻る。
愛せよということは、和解せよということなのだろうか? 捜して合流しろということなのだろうか。
楊儀が首を左右にぶんぶん振る。絶対ありえない、とでも言いたそうだ。
- 15 名前:What is a Pretence? 2/5:2007/04/08(日) 00:28:56
- 6曲目は、4曲目と似た感じの軽快な曲だ。
歌詞を聞き漏らすまいと、楊儀と太史慈がイヤホンを耳に捻じ込んでいる。今回は李典は一旦お休み。
この手を紅く染めるたび 閉じ込めたこの想い
果てしなく続く絶望に 瞳を閉ざして 涙も枯れてた 空っぽの私でも
ああ 広い宇宙で出会えた奇跡だけを 握り締めてまた翼広げる
この手を紅く染める度 閉じ込めたこの想い 硬く結ぶ唇 零れ落ちた切なさ
そう貴方を守るため強く誓う 今この時を戦い抜く そして光満ちた未来抱きしめる
永遠に続く哀しみを 背負い歩いてる 誰かを傷つけ汚れきった翼でも
ああ 触れた指先忘れられずに今も 記憶の中温もりを求める
叶わぬ願いなど無いと突きつけたナイフさえ 戸惑い震えている溢れそうな愛しさ
そう 貴方と描いてく新たな世界へ羽ばたこう 振り向かない 決して 紡ぎ出す未来輝かせる
この手を紅く染める度 閉じ込めたこの想い 硬く結ぶ唇 零れ落ちた切なさ
そう貴方を守るため強く誓う 今この時を戦い抜く そして光満ちた未来抱きしめる
果てしなく続く絶望……。楊儀がげんなりした顔になる。
だが、全体の内容は大切な誰かの為に手を汚すという崇高な歌のようだ。
- 16 名前:What is a Pretence? 3/5:2007/04/08(日) 00:30:16
- 李典も聞き終えた後、歌詞の内容について3人で考える。
「これはきっと、この歌のように、誰かを守る為に他の誰かを傷つけなくてはならなかった人が
どこかにいるということなのではないでしょうか」
「う〜ん、仮にそうだとして、その人は何か物事の解決に関係あるのか?」
「う……それは私には判りませんが」
思いついた推測を述べた李典だが、楊儀に聞き返されて言葉に詰まる。
「む……もしかすると、その人が手掛かりになる何かを知っている、ということなのではないか?」
太史慈が手をぽんと叩いて言った。
「おお……って、仮にそうだとして、それに該当する人をどう探してどう確認する気だ……」
「むむむ」
いい線を突いていると思ったのだが、やはり楊儀に突っ込まれて固まってしまい、さらに李典に「何がむむむだ」と
言われる始末である。
「まあでも、支給された物に入ってたんだから、全く意味が無いという訳でもなさそうだよな……」
楊儀は考えるが、果たしてそんな人がいたかどうか、全く思い当たる節がない。
……数分後。
「とりあえずこの曲は保留! 次行ってみよう!」
気持ちの切り替えだけは早い楊儀であった。
- 17 名前:What is a Pretence? 4/5:2007/04/08(日) 00:31:26
- 7曲目。スイッチを押すと、柔らかいが力のある女性の声が聴こえてきた。
夢から覚めてもこの手を伸ばすよ
同じ強さで呼び合う心になれるのならば 何人分の傷でも僕は受け止められるよ
もう少しだって気がするんだ この壁が崩れる黎明
夢から覚めてもまだ見ない夢の方まで 僕らは一人で走り続けるしかないんだ
転がり迷って作り出す僕の引力が いつか君へ
寂しさに流されたり 嘘を嘘で隠したり 何度も間違えたのにまた最後の恋をして
見飽きた筈の黄昏がこんなに綺麗だと泣いた
ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで 僕らはぐるぐる同じ場所を回ってるんだ
勢い任せでいつかは昨日の引力を超える 君と
僕は君に出会う
夢から覚めても僕らは夢を乗り継いで まだ見ぬ誰かに懲りずにこの手を伸ばすんだ
足りない心と身体が愛を捜す引力が届く 君に
夢から覚めてもこの手を伸ばすよ……
聞き終えた楊儀の顔が少し明るくなった。「もう少しだって気がするんだ、この壁が崩れる〜」の辺りに
現状から抜け出す希望を見出したらしい。
「確かに、今いる所から別のどこかへ渡って行けそうな歌詞ですな」
うんうんと李典が頷く。だが、太史慈はどうやら他の箇所に注目したようだ。
- 18 名前:What is a Pretence? 5/5:2007/04/08(日) 00:32:38
- 「俺はどちらかというと、こっちの『ゴールのつもりでリセットボタンに飛び込んで、僕らはぐるぐる同じ場所を回ってるんだ』
の方が気になるのだがな」
ごーる? りせっと? 訳が解らない楊儀と李典が聞くと、ゴールというのは終着点で、リセットというのは全てを破棄してやり直す
ことだ、と太史慈が説明してくれた。
「終着点のつもりなのに、また最初からやり直し……。全体の中でここだけが妙に徒労感を感じるのだが」
「うーん……何か成し遂げたと思ったら夢でした、とかじゃないですか、他の箇所との繋がりで」
「うむ、その『夢』というのも少し気になっていた。ひょっとすると、そもそも根本的に矛盾しているこの世界を端的に
表している語なのだろうか、とも思った」
太史慈が一応それっぽい推測を口にすると、李典も思った事を言う。
「私は『何人分の傷でも僕は受け止められるよ』というのが気になりまして。そんな人いるんですかね?」
……さあ? 楊儀と太史慈は顔を見合わせて肩をすくめた。
<<楊儀くんと子義マンセー/3名>>
太史慈【ジョジョの奇妙な冒険全巻】
李典【SPAS12】
楊儀【MDウォークマン】
※手掛かりを求めてMD鑑賞中。明確にそれと解る手掛かりが得られるまでMD聴き尽くし。
現在位置、微妙に移動して荊州中部。
※6曲目は「DAWN」、7曲目は「Silly-Go-Round」。(5曲目は詳細を定めていません)
※歌詞が本来のものと表記が異なっています。(耳で聞いた際に考え得る表記に極力準拠しています)
「ときに、最初の3曲とその後の4曲の雰囲気が妙に違う気がするな。5曲目は例外として、おそらく3曲目までと
4・6・7曲目を選んだのは別の人間ではなかろうか」
「なるほど、それは考えられますね。最初の3曲は直接的な手掛かりと言うよりは楊儀殿の行動指針だったようですし。
となると、8曲目以降も何か手掛かりっぽい歌が入っている可能性が期待できますな……」
もっとも3曲目までも、これらが無ければ今こうして3人で手掛かりを模索することなど有り得なかった訳で、
ある意味手助けにはなっていたのだろう……と、太史慈と李典の会話を聞いていた楊儀は思った。
- 19 名前:Only,Lonely,Glory! 1/20:2007/04/08(日) 01:38:30 ?2BP(125)
- カサリカサリと枯葉を踏み、彼らは深い森を行く。
周囲に咲き乱れる白い花。そういえば白は葬送の色だ、と森を歩きながら凌統は思う。
淡い桃や薄青は混じれども、どの花も基調は白。献帝の嫌がらせだろうか。
付きまとう嫌な感覚を打ち消そうと、足元の石を蹴っ飛ばそうとしたその時。
母犬が唸り声を上げ、身を低くした。
――誰か居る!?
馬謖の袖を引き、探知機を覗き込む。
犬の視線の先に該当する光点はない……ように感じられるが。
まさか、察知できない……首輪が壊れている?
武器を構え、来訪者に備える。
がさがさと大きい音を立て、鼻息も荒く現れたのは――
「……おい、あれ何に見える?」
「…………牛?」
「まごうことなき牛ですね」
「あぁ、全くの牛だな……」
「鼻息荒いな。牛」
「どうします? 牛」
「こっちに突進して来そうなの気のせいか? 牛」
牛ではなんかどうしようもない。牛だし。
凌統、馬謖、陸遜の3名はじりじりと後ずさった。
「たぶん気のせいではないかと。牛」
「でしとかにょとかに続け。新ジャンル『語尾が牛』」
「なんでもいいから……取り合えず、逃げろー!!」
- 20 名前:Only,Lonely,Glory! 2/20:2007/04/08(日) 01:42:02
- 脱兎の如く回れ右、全速力で奔る彼らの後ろにぴったりと追随する牛!
牛、奔る!!
「が、街亭から無傷で帰還した私の逃げ足を舐めるなあぁぁ!」
「それ自慢になりませんよ馬謖さん!!」
「壊滅状態の合肥から生還した俺の逃げ足も舐めるなあぁぁ!」
「凌統それ割と自虐的ですよ!? えええと、僕の逃げぎゃふっ!?」
足元の小石に足を取られて転倒する陸遜。
その尻の上を軽やかに走り抜ける牛!
「ううっ、陸遜殿あなたの尊い犠牲はしばらくは忘れないぞー!」
「いや俺らも遠からず同じ道を! 軍師なら何とかしろ馬謖ー!!」
「無茶言うな! 兵法は牛を対象としてない!!」
そして、しばらく後。
ぜーぜーと大の字に転がって荒い息の凌統と馬謖、そして暴れ牛の死骸がそこにあった。
凌統の渾身の銃撃で何とか『牛に突き殺される』という将として最悪の死に方は免れたが、
精神的な疲労は結構なものである。
牛追い祭りならぬ牛に追われ祭りだ。
「お疲れ様でした」
「解せない、なんで、陸遜殿、だけ、元気なんだ、ぜぇぜぇ」
「や、だって僕早々にリタイアしましたんで、体力が温存されてますし」
「……とりあえず、今日の飯は、焼肉だな、豪華だぞ、感謝しろ……
つーか、良く考えたらお前がそんなド派手な赤い服なんて着てるからだろ馬謖!」
「赤じゃないぞ紅梅色だ!」
「似たようなもんだろ!?」
ミョルニルではたかれた馬謖の頭から、スコーンと実にいい音がした。
- 21 名前:Only,Lonely,Glory! 3/20:2007/04/08(日) 01:43:42
- 不毛な口喧嘩を繰り広げつつ、馬謖がぼてっと寝転がったまま探知機に手を伸ばす。
眠っていない時はほぼ常時それを確認するのが、既に彼の癖になっているらしい。
姜維たちの無事、そして自分たち一行の周囲の安全を確認する――
決まりきったパターンになりつつあるその行為。
だがちらりと陸遜が横目で見た馬謖の顔は、常と違って青ざめていた。
鞄から探知機の説明書を取り出し、猛烈な勢いでめくり始める。
「馬謖さん、どうかしたんですか?」
「……や、……え、いや、あ」
何か言いたいのだが言葉にならないらしい。
焦れた陸遜は馬謖から探知機を引ったくり、絶句した。
「……え、ちょっと、嘘でしょう」
荊州に残してきたはずの姜維と関興の光点が、消滅していた。
すなわち死亡。洞窟周囲に残る光点は、司馬懿を示すひとつだけ――
陸遜の脳裏に黒の書物が過ぎる。
太史慈に聞いたその効能、洞窟周囲に外敵は無し。暴れ牛でも出なければだが。
ならばこれは、呪いの書による司馬懿の暴走?
- 22 名前:Only,Lonely,Glory! 4/20:2007/04/08(日) 01:45:25
- ふぅーっと母犬が唸り声を上げた。森の一点を見据え、ぐるるると低く喉を鳴らす。
なんだ、また牛か!?と悲鳴を上げる馬謖を他所に、凌統も同じ方向を見据えて銃剣を構える。
「おい馬謖、探知機見てるんじゃなかったのか?
お前の目玉はうずらたまごか?」
軽口を叩きながらも、凌統の頬を汗が伝う。冷や汗。
数秒後に馬謖たちも感じとったのは、圧倒的なまでに吹き付けてくる殺気だった。
探知機に目を落とす。人間の規格外の速度で突進してくる光点がひとつ。
「……くそっ」
失われた光点に気をとられ、自らの周囲を見落としたらしい。
まだ主の姿も見えないのに、冷たい烈風の如き闘気が叩きつけられる。
ガチガチと妙な音がする。
震える自身の奥歯が立てている音だと彼らが気付くまでには、数秒の時間を要した。
ヒュオンッ、と風を切る音。
「…………ッ!」
視認すら難しい速度で飛来したそれを凌統が避け得たのは、ほとんど奇跡と言って良かった。
直接触れてもいないのに、その衝撃波のみで凌統の右袖を切り裂いたそれ。
一振りの青龍偃月刀が地に突き立っていた。
「――逃げろ!」
「でもっ、凌統」
「いいから行け! 邪魔だ!」
「行きますよ、馬謖さん……!」
なかなか動こうとしない馬謖の袖を掴み、逆の腕に仔犬を抱えて陸遜が身を翻す。
ここに居ても自分たちに出来ることはない。
ならば一旦退き、策を考えるのが軍師の仕事。
- 23 名前:Only,Lonely,Glory! 5/20:2007/04/08(日) 01:47:49
- 【side 呂布】
俺の中には獣が棲んでいる。
呂布は常々そう感じていた。ほんの幼い頃から、ずっと。
そいつは時々癇癪を起こしたように荒れ狂い、俺の周りの人間を傷付けた。
その獣のエサは闘いだ。俺が闘えば獣は満足し、大人しくなる。だから闘う。
子供の頃は、近所のガキ大将をシメた。
すこし大きくなって、村を襲った盗賊を倒した。
その次は軍に入り、敵軍の兵士を殺した。
敵軍の将を殺した。
たくさん殺した。
もう、長い長い付き合いだ。
……だから、分かる。
今、自分の中で暴れているコレは、あいつじゃない。
殺セ殺セ。聞こえる声はあいつと同じ。とてもよく似ている。
でもあいつは何を殺すかなんて指定しない。その選択権は常に俺にあった、だから上手くやってこれた。
これは異物だ。俺を操ろうとする異物だ。
俺は誰の言いなりにもならない。
貂蝉が望めば養父も殺した。陳宮が請えば戦に出た。
だがそれは、あくまで俺が選んだことだ。
(劉備ヲ殺セ)(関羽ヲ殺セ)(張飛ヲ殺セ)
五月蝿い。俺に指図するな。
(殺セ、セセセ)
五月蝿い!
闘えば静かになると思った。俺の獣と同じように。
その相手が劉備でなくても関羽でなくても、張飛でなくても。
寧ろその3人は嫌だった。異物如きの言いなりになるのは業腹だ。
(殺セ殺セ殺セ)
黙れ黙れ黙れ!
- 24 名前:Only,Lonely,Glory! 6/20:2007/04/08(日) 01:53:02
- 付近を探れば、3つの気配が感じられた。
2つは問題にならないほど弱そうでがっかりする。道端のねこじゃらし程の価値もない。
だが、1つはそこそこ骨がありそうだった。
――よし、闘おう。
だがすぐに殺しては、獣は満足しない。『闘い』でなければいけないのだ。
この異物もそうだろう、俺の獣と似ているのだから。
自分の手を見る。立派な刀。
駄目だ、と思った。武器を使うと、すぐに雑魚は死んでしまう。
そこでそれを思い切り投げた。その気配の主めがけて。
避けられないなら、闘いとして成立しない程度の相手でしかないだろう。
……手応えはなかった。呂布は満足し、口角を少し上げる。
すぐには殺せない。この獣もどきが鎮まるまでは、死んでもらっては困る。
※ ※ ※
去る仲間たちを背に、凌統は青龍偃月刀を引き抜いた。
――重い。だが銃剣よりも確実に頑丈だ。
がさりと音がして、血走った目の大男が現れる。
「りょ、呂布……」
この遊戯の開始直後。
呂範を一刀で真っ二つに切り裂いたその姿に怯え、全力で逃げたことが否応無く思い出される。
生物としての本能が足を竦ませる。立っていられるのが不思議なほどの震え。
今すぐにでも逃げ出したい。たとえ背から斬り殺されても、この場から立ち去りたい!
圧倒的な力の差。抗うことなど、出来ようはずも無い。
忠実な犬だけが、彼の傍らに寄り添う。その暖かさにほんの僅か勇気付けられる。
――ここですぐに俺が逃げたら。馬謖も陸遜殿も死ぬ。
せめて時間を、彼らが逃げ切れるだけの時間を!
- 25 名前:Only,Lonely,Glory! 7/20:2007/04/08(日) 01:55:38
- 【side 馬謖&陸遜】
「りっ、くそん殿っ、りょ、凌統が」
「息切れてるんなら走りながら喋らない! 舌噛みますよ」
しばらく駆け通し、殺気が追ってこないことを確認してようやく彼らはその場にへたり込んだ。
「な、なんだ、なんなんだあれ、人間か?」
「相当名のある武人には違いないでしょうね。
趙雲か夏侯惇か、あるいは――呂布か」
「ちょ、それじゃ凌統が危険じゃないか……!」
「分かっています! だからといって僕たちがあそこにいて何の役に立つんですか!」
馬謖にも勿論、分かってはいるのだ。自分たちが居た所で足手纏いにしかならないと。
何が出来る。今自分たちに何が出来る?
はっと思い出し、馬謖はごそごそ鞄を漁って師に渡された書付を取り出す。
困った時に開けろ、と渡されたそれ。正に今がその時だ。
壱の数を振られた包みをそっと開く。
『助けを借りよ』
ごくごく簡潔な一文。誰の助けかも書かれていない。
誰の。きっと陸遜ではない。諸葛亮自身でもないだろう。
誰の。誰の! 縋るような心地で探知機を覗き込む。
……居た。自分たちのほど近くに、正体不明の光点がひとつ。
常であれば決して近付かないだろう。
しかし今の馬謖には、何かの啓示の様に感じられた。
「あっ、馬謖さん、どこへ」
探知機を手に駆け出す。仲間を救う鍵がそこにあると信じて。
- 26 名前:Only,Lonely,Glory! 8/20:2007/04/08(日) 02:04:14
- 【side 凌統】
気のせいか、初めて見たときよりも呂布の腕力は増しているように思えた。
呂布に武器はない。拳と脚だけの攻撃なのに、凌統は全身に細かい傷を負う。最高まで鍛え抜かれた肉体は、時に刃物より鋭い。
「くっ」
シャッ!
人間の動きが発するには、あまりにも鋭い音。胸元ギリギリに岩より硬い拳が振りぬかれる。
一度でもまともに喰らえば、それはきっと致命傷だ。
だが腕力と引き換えに、呂布の目からは知性の光が失われていた。
ゆえに攻撃は単調。ある程度の武人なら、見切るのは難しくない……しかし避け続けるには限界がある。
「ぬぅ……」
それでも再び、ギリギリで鉄拳をかわす。代わりにそれは木の幹に吸い込まれた。めきめきめきぃ、と音を立て幹が軋む。
辛うじて倒壊は免れた木は、しかしもはや生き返ることは無いだろう。幹の半分以上が折れてしまっている。
「くっ、そ! どんな馬鹿力だよ!」
こんなものを直接喰らえば、人間の内臓など一瞬で挽き肉だ。
巨体は面倒くさそうに手足を振り回しているだけなのに、凌統の体力はどんどん削られていく。
手にした青龍偃月刀で受け流し、またはギリギリで回避し、受ける傷を最小限に抑える。
「くっそぉ! 何で切れねーんだよ!? 呂布も人間だろ、人間のはずだろ!?」
青龍偃月刀の重い一撃も、呂布の皮膚に赤い線を残す程度。
呂布だって人間だ。その身体は肉のはずだ。鋭い刃物を生身の肉にぶつけているのに、なんで切れない!
筋肉ではじく? 筋肉も肉だろ、有りえねぇ! なんだよ、鎧の方がまだ柔らけぇよ、どんな化け物だよ!
凌統が流す血はどんどんその量を増し、いつの間にか全身は朱に染まっていた。
対して刀による僅かな切り傷を除けばほぼ無傷の呂布。
それはあまりにも絶望的な状況だ。
―――だが。
凌統は守りにおいてだけ、背中に庇うものがあるときだけ、限界以上の力を発揮する。
半数の兵が抜けた江陵の本陣を、二十歳にも満たない若さで曹仁軍の手から守りきった南郡攻略戦。
雷撃の如き張遼の怒涛の攻勢を、旗下三百騎で食い止め主君を生還させた合肥の戦。
「はっ、畜生! 化け物退治は俺の守備範囲じゃねーってのになぁ……!」
そして今も―――不思議ともう、足は震えない。
- 27 名前:Only,Lonely,Glory! 9/20:2007/04/08(日) 02:06:03
- 【side 馬謖&陸遜】
それに殺気は無かった。
「助けてくれえぇぇぇぇ」
と鼻水と涙を撒き散らしながら走ってくる奴に殺気も何もあったもんじゃないか、と甘寧は思う。
さてここで問題なのは、その変な奴がまっしぐらに突進してくるのがどう考えても自分に向かってだということだ。
なんでだ。なんで俺のほう来るの。やめれマジやめれ。鼻水拭け。
もし甘寧が数日前の諸葛瑾を目撃していたら、その様子にさぞ既視感を覚えたことだろう。
戸惑いながらシグ・ザウエルを取り上げ、一応狙いを付ける。
だが危機感やその類のものはあまり感じない。というか、これは引く。関わりたくない。
「だーずーげー……でひゃひゅっ!?」
奇怪な声と共に木の根に蹴つまづいてすっころび、ずざざざざーと痛そうな音を顔面で立てながらスライディング。
甘寧の足元を通り抜ける。繰り返すが顔面からスライディングしながらだ。惨状が予測される。
ごくり、と甘寧は唾を飲んだ。
これはイヤだ。なんだかよくわからんが、本格的に関わりたくない。関わったら運の尽きだと直感が告げている。
関わったら負けだ。そろりと甘寧は一歩後退した。
……右足が動かない。
足首をがっちりとうつ伏せたままの不審人物に掴まれていた。
ぶんぶんと足を振る。とれない。
ぶんぶんぶんとさらに振る。とれない。
文官くさい風情のくせに意外と握力が強い。
「……あーもう、なんなんだ! なんなんだお前、離せ!!」
「いやだ! 助けてくれ!」
「何からだ!? 熊でも出たのか?」
「熊じゃなくて牛……ではなく!」
甘寧の右足首を掴んだまま、それはがばっと顔を上げた。
うっわひでぇ、と甘寧は顔をしかめた。
涙と鼻水といま擦りむいた血、詳細を描写するのが憚られるほどのどろどろっぷりだ。
「仲間がすごい強そうな男に襲われているんだ、頼む、助けてくれ」
すごい強そうな男。
強い奴と戦いたい、という欲求がややくすぐられるが、殿の仇を取るのが最優先だ。
悪いが今は関わっている余裕が無い。
- 28 名前:Only,Lonely,Glory! 10/20:2007/04/08(日) 02:07:23
- 「知らねーよ。自分でなんとかしろ、離せ」
「しかしその服、孔明先生のだろう! これは天啓なんだ、間違いない! 助けろ!」
「孔明先生ィ? ……お前諸葛亮の縁者か何かか?」
「弟子だ!」
なるほど諸葛亮には世話になった。働かされたが。
しかしその弟子にまで恩があるかといえば、否だ。
「……やっぱ知らね。離せ。俺は荀イクの糞野郎を殺りに行くんだ」
そう吐き捨てた瞬間、その諸葛亮の弟子の声が一段低くなった。
「荀イク? 詳しく話せ。なんなら力になってやる」
「や、お前に何か出来るとも思えねーんだけど。お前弱そうだし」
それ以上にあんまりお前に関わりたくない。顔ぐちゃぐちゃだし。鼻水拭え。いや、俺の服の裾でじゃなくて!
「ふっ、こっちが1人だと誰が言った! 他にも仲間は居るし、私より」
甘寧の、というか自分の師匠の服でずびびーっと鼻をかみながら偉そうに何か言いかけたとき、
「甘将軍!」
甘寧にとっても聞き覚えの有る声がそれを遮った。
「……陸家の都督殿じゃねーか」
新たに現れた人物、陸遜とはさして親しかったわけではないが、面識はもちろん有る。
そして油断ならない相手であろう事も分かる。
シグ・ザウエルの狙いを、鬱陶しいだけで特に害はなさそうな足元の変な文官から陸遜へと移した。
「甘将軍。凌統が……おそらく呂布、か夏侯惇。もしくは趙雲。
誰であるにしろ間違いなく名のある猛将に、ひとりで立ち向かっています」
「凌統ゥ? 公績がなんでそんな奴らに喧嘩売ってんだ? 負けるだろ、それ」
「凌統が売ったわけではありません、突然襲われて、僕たちを庇うために迎撃するしかなかったんです。
筋違いな願いかもしれませんが、どうか彼を助けてあげてください。お願いします。……お願いします」
陸家の坊っちゃんはこの変な奴のツレか。
深々と頭を下げる陸遜に、どうしたものかと甘寧は手に持つ銃をいじる。
まぁかつてはいろいろあったが、凌統は自分の身内であると今は思っている。
それに猛将というのにも興味がある。武人の血が騒ぐのだ。だが、
「公績には悪ぃが、俺には用事があるんでね。俺は――」
「凌統はお前を尊敬していると言っていた」
ずずーっと鼻をすする音と共に、足元から声がした。
- 29 名前:Only,Lonely,Glory! 11/20:2007/04/08(日) 02:08:17
- 「甘興覇は強くて格好良いだけでなく、器の大きい素晴らしい男だと凌統は言っていた」
「ああん?」
「ガキみたいに親の仇親の仇と因縁を付けていた自分を許し、さらに弟分とまで呼んでくれた、
まさに英雄と呼ぶに相応しい大きな男だと言っていた。自分もあんなふうになりたいと、憧れていると」
「……」
「頼む。助けてくれ。甘将軍、貴方だけが頼りなのだ」
瞬きもせずに見上げ、じーっと視線を合わせてくる。
そんなにらめっこに負けたのは……甘寧だった。
「ちっ。仕方ねぇなあ! そこまで慕われては仕方ねぇ! おい、公績はどっちだ!」
「このまま真っ直ぐ北だ。私たちが通った跡を辿ればいい」
「わーった。待ってろ、公績!」
軽々とした身のこなしで駆けていく甘寧の背を見送り、陸遜が呟いた。
「……馬謖さん、凌統は本当にあんなこと言ってたんですか?」
視線を宙にさまよわせ、微妙な笑みを貼り付かせて馬謖が答える。
「……まぁ、有名な美談だからな」
「つまり、言ってないんですね。あとで凌統に殴られるんじゃないですか、貴方」
「ひとり分の命が私のコブくらいで贖えるなら、それは安いものだろう?」
- 30 名前:Only,Lonely,Glory! 12/20:2007/04/08(日) 02:11:57
- 【side 凌統】
幹を折られた木の数を数えるのを、凌統はとっくに止めていた。
殴られる、受ける、蹴られる、かわす、延々とそれを繰り返す。
かわすたびに森の木が傷付けられるが、それを申し訳なく思う余裕など何処にもない。
呂布の手や足がかすった全身の傷から、真っ赤な雫が滴り続ける。
果てしなくも思える回避運動は、いずれ終焉を迎えるだろう。凌統には容赦なく疲労が蓄積されていくのだ。
そうなる前に、その均衡を自分から崩さなければならない。どうやって?
自問自答。右に逃げても左に逃げても、呂布の拳は迫ってくる。
襲い来る拳を避けて右へ、次をかわす為に左へ、左、後ろ、右、望まぬ剣舞を何処かで断ち切らねば未来は無い。
いまや身軽さだけが命綱。それだけが凌統がまだ生きていられる理由。
身の軽さ……
非常時にも関わらず、いやだからこその走馬灯だろうか。
幼い自分が故郷の大木を軽々とよじのぼる。根元には笑う父の姿。そんな光景が頭を過ぎる。
父には登れないような高さまで行けるのを、とても誇らしく思っていた。
――呂布の巨躯を見る。
(大人の父には登れないような――)
それはいわゆる、いちかばちかの賭けだった。
凌統は飛び退り呂布との間を開け、青龍偃月刀を近くの木に立てかけてそれを足場に駆け登る!
さすがに意表をつかれた呂布が躊躇した。
その隙に、葉の揺れる音を立てながら隣の枝へと飛び移る。
不満そうな唸り声がし、青龍偃月刀が勢い良く凌統目掛けて投げられた。
飛来するより先に偶然、隣の木の枝へ移ろうとしていた凌統は僥倖を得る。
「避ケルナ!」
しかし当たらなかった偃月刀は地に落ちるし、落ちたそれを呂布は拾える。
いや、そのような手間をかけるより、凌統の居る木を殴り折ったほうが早いかもしれない。
樹上の凌統に再び、青龍偃月刀が襲い掛かる。
だが風を切って飛ぶ刃は、不思議なほどに命中しない。
まるでそれ自身が凌統を傷付けることを拒んでいるように。
- 31 名前:Only,Lonely,Glory! 13/20:2007/04/08(日) 02:13:44
-
幼い頃を思い出しながら、凌統はわざと枝を揺らす。
自分の居場所を僅かずらして教えるためだ。
何故だか落ち着きを失っている呂布は、平素なら気付くであろうその小細工に気付けない。
そんなささやかな罠を仕掛けつつ、凌統は木から木へと飛び移る。
幼い頃ほど上手くは行かないが、決して捨てたものでもない。
俺ってもしかして先祖が猿なんじゃね?と進歩論的に実は正しい事を考えつつ、凌統は苦笑いを浮かべた。
※ ※ ※
木の根に足を取られる、木と木が密すぎて通れないという現状に焦れ地上の呂布は顔をしかめる。
これでは闘いにならない。エサを与えなければ、身の内で獣が暴れだす。
手綱を離れて暴れだせば、俺の全てが乗っ取られてしまう。
こんなとき、いつも思い出す光景がある。
初めて殺した人間の姿だ。よく一緒に遊んだ少女の死体。血にまみれた自分の剣。
何が原因だったのかはもう思い出せない。ただ、真っ赤なその姿だけが瞼に焼きついている。
劉備だの関羽だのを殺すのは構わない。
だがそれが自分の意思でないことが怖い。自分が望まずに人間を殺してしまうのが怖い。
助けてくれ。貂蝉、厳氏、陳宮、母上……誰か……。
- 32 名前:Only,Lonely,Glory! 14/20:2007/04/08(日) 02:15:51
-
※ ※ ※
呂布はどこまでも追ってきた。
命懸けの高鬼だ。鬼に捕まるか、諦めて鬼が立ち去るか、どちらかしか終わりはない。
ふと親犬の姿が消えていることに気付く。
たしか呂布の足に噛み付いたり、体当たりで拳を逸らしてくれたりしていたのだが……
到底敵わぬ事を悟り、逃げたのだろうか。ならばそれでいい。自分のために、むざむざ死なせるのは嫌だった。
合肥で麾下三百を失った悪夢が頭を過ぎる。
ピ。
突然奇妙な音がした。空耳かと凌統は思う。
ピ。……ピ。
違う。空耳ではない。確かに聞こえる。どこから?
ピ。…ピ……ピ……
自分の首元から。
どことなく聞き覚えがある気がする。
(「な、なんじゃ、儂のこの首輪が鳴っておる?」)
(「ああ、周りの人は一応離れておいた方がいいですよ、危ないから」)
(「陛下、何をなさ……!!!!」)
一瞬で顔から血の気が引いた。
ここはどこだ。益州の北。禁止区域のすぐ傍。……踏み込んでしまった!!
戻らなきゃ。戻る。戻るんだ!
禁止区域と呂布。問答無用の爆死より、抗う余地のある呂布の方がまだマシだ!
枝を揺らして南へ駆ける。そして気付く。帰る道が、樹上に無い!
へし折られた幹。足場には到底出来ない。そして足元には、呂布が間もなく追いつく。
飛び降りる? どう降りても、体勢を整える前に呂布の拳が自分に突き刺さる様が見えた。
……ならば。
腰の銃剣を抜き、凌統は呂布目掛けて飛び降りる!
- 33 名前:Only,Lonely,Glory! 15/20:2007/04/08(日) 02:17:54
-
※ ※ ※
逃げる一方だった獲物がこちらへ向かってくる。
祈りが天に通じたか。すぐにエサを与えてやるからしばし待て、と体内の異物に呟く。
恐怖で頭がおかしくなったか、自棄を起こしたのか、あろう事か自分目掛けて降ってくる。
もちろんその程度で、この呂布をどうにか出来るはずも無い。
振りかざされる妙な形の剣の軌跡を、呂布は軽々回避する。
ぱん、と軽い音がした。
左耳が一瞬で熱を持つ。
自分の耳が吹き飛ばされたと、呂布はすぐには気付かなかった。
左の音が聞こえない。
たかが。
たかがエサごときに。道端のぺんぺん草と変わらぬ雑魚ごときに!
視界が怒りで赤くなる。
すぐには殺さないと思っていたことなど、既に思考に無かった。
微塵の容赦も無い拳が体勢の崩れている凌統に突き刺さる。
吹き飛ばされた凌統の体が木の幹に打ち付けられ、そのままずるずると崩れ落ちた。
- 34 名前:Only,Lonely,Glory! 16/20:2007/04/08(日) 02:20:29
-
※ ※ ※
……もうダメだ、と凌統はついに自覚した。
額から垂れた血とそれが流れこんだ目を、ぐいっと拭う。世界の赤さが少しだけ薄れるが、それだけだ。
手の届く所に青龍偃月刀が転がっていた。呂布が近くに置いていたのだろう。
掴んで引き寄せた。重い。酷く重い。
それでも戦士としての本能が凌統を足掻かせた。
青龍偃月刀を杖にして、震える足で弱々しくも立ち上がる。
自らの血でぬるぬると滑る手。失血で視界は霞み揺れる。
酷く冷たい目で、薄赤い呂布が自分を見ていた。
素手の相手に対し刃物を持つ、それだけのアドバンテージを与えられてなお、力の差はかくも圧倒的だった。
「雑魚メ……死ネ」
振り上げられた呂布の拳が逆光と相まって、奇妙に神々しく見えた。
膝が折れそうになる。この場に崩れ落ちることが出来れば……楽だ。
もういいじゃないか。俺は十分頑張った。敵う訳も無い相手に、十分抗った。
そしてあれが振り下ろされれば、俺はもう楽になれる。
十分時間は稼いだはずだ。馬謖も陸遜殿も、後は自分でどうにか――
『凌統殿〜、諦め良すぎますよー』
苦笑をはらんだ明るい声が耳を掠めた、気がした。
――凌統が握るのは、関羽の青龍偃月刀。
『ほら、せっかくの武器、杖にしてないで』
声につられて、重い重いそれを持ち上げる。
――この名刀は関羽の死後、息子である関興に受け継がれた。
『右手はもうちょっと上です。そうすると支点がずれるから……ほら、結構持ちやすいでしょ?』
――そしてそれを持つ関興は死した父の霊に導かれ、
『さぁ、ちゃんと前を見て。敵も疲れてますよね?』
獅子奮迅の活躍をしたと三国志演義には記されている――
正当な持ち主が使い手を認めた時、青龍偃月刀は真の力を発揮する。
凌統が再び闘志を取り戻したのは、二代目の主である死した友、関興の守護を得たが故だろうか?
- 35 名前:Only,Lonely,Glory! 17/20:2007/04/08(日) 02:21:55
- 冷艶鋸とも呼ばれる刀を握る手に、暖かい何かが添えられた気がした。
もう少し。もう少しだけ、頑張ってみよう。
僅かながら生気を取り戻した凌統を呂布が訝しげに眺めたのは束の間、直ぐに鉄より硬い手刀が飛来する!
ぶつかり合う金属音こそしない。だが異様に硬い呂布の筋肉は刃物さえ受け付けない。
既に人間ではない何かの高みに達した呂布に、凌統は防戦を強いられつつも隙を伺う事を諦めない。
立つのもやっとの状態で、それでも闘う凌統を、戦の女神が哀れんだのだろうか。
呂布の背後、左側から、赤い塊がごそりと現れた。
それが何なのか、凌統にもすぐには分からなかった。
凌統に付き従っていた大きな犬。
樹上を逃げる主人のために、懸命に地上でそれを助けていた忠犬の姿だった。
シロという名の由来であった体毛は、もはやその面影も残さぬほど血に塗れ。
それでもなお、主人の為に――
飛び掛る犬。
左の音が聞こえぬが故に気付かず、大きく体勢を崩す呂布。
崩れた体勢からも翻る拳。吹き飛ぶ犬。
しかし勇敢な犬の命と引き換えに、僅か一瞬の死角が生まれる――!
- 36 名前:Only,Lonely,Glory! 18/20:2007/04/08(日) 02:25:42
- 『行けええぇぇっ!!』
「うおおおぉぉッ!!」
一切の防御を顧みず、凌統は全身を弾丸と変えて飛び込みその刃を振り下ろす!
びしゃああぁぁ、と血の雨が降り注いだ。
左肩から右脇腹にかけて袈裟懸けに斬り裂かれ、さすがにたまらず呂布がよろける。
……深い。だが致命傷ではない。
ぐおおぉ、と呂布が咆哮し、怒りのままに岩より硬く重い拳を振り下ろす。
体勢の崩れた凌統に抗う術は無く、ぱん、と赤い血の花が弾ける。
……それが自分のものでないと気付くのに、凌統は数秒の時間を要した。
「おいアンタ、俺の身内に何してんだよ?」
血の流れる肩を押さえた呂布の懐に、矢のように飛び込む影。凌統を庇って立ちふさがる。
飛びのきながら、血走った目で呂布が呻く。
「…………興、覇?」
「よう公績。生きてっか?
……俺の弟分をよーくも、痛い目にあわせてくれたな、おっさん!」
かつて親の仇と憎み、そして後に生死の交わりを結ぶに至った男の背を認め。
凌統はその場に崩れ落ちた。
- 37 名前:Only,Lonely,Glory! 19/20:2007/04/08(日) 02:27:57
-
※ ※ ※
信じられなかった。
耳を吹き飛ばされた。
体を切り裂かれた。
肩を撃たれた。
常に最強であった自分が、いかに油断していたとは言えこんなに傷を受けた。
その事実に自分自身の芯が揺らぐ。
信じられず、信じたくもなかった。
有り得ない。有り得ない!
だから頭に『それ』が染み込んできたとき、諾々と従ってしまったのだ。
獣もどきが猛るのは変わらない。だがそれに似た、またさらに別の何か。
(――そっちにいるのは私の獲物だ。お前は東に行け――)
文章にすらならないその意思の塊を、あえて言葉に変えるならこのような感じだろうか。
呆然としたまま呂布は身を翻し、ふらふらと東へ歩き始める。
「お、おい、ちょっと! おいコラ、闘えよ!」
甘寧の声は呂布に届かない。
その背を追おうとした甘寧を、足元に倒れた友人の姿が押しとどめる。
「っだー! 闘わせろよ、コラー!!」
ひとしきり吼えた後、不満げに息を漏らし、甘寧は倒れている凌統をつついた。
一応生きているようなので、なんとか弟分を救うという目的には間に合ったか。
「公績、大丈夫か? うっお、ひどい怪我だな……」
気を失った友人を担ぎ上げ、木陰の草地へ寝かせる。
呂布が去ったことを察知したらしい陸遜と馬謖が、辺りを窺いながら駆け寄ってきた。
- 38 名前:Only,Lonely,Glory! 20/20:2007/04/08(日) 02:32:39
- <<既視感を追う遊撃隊/3名>>
凌統 [満身創痍、気絶]【関羽の青龍偃月刀、銃剣、魔法のステッキミョルニル】
馬謖【探知機、諸葛亮の書き付け(未開封美品)×2】
陸遜【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×2)、ジッポライター、仔犬(チビ)】
※益州北部。洛陽城の観察を試みる予定でしたが、姜維と関興の首輪反応の消滅を確認したため行動方針を再検討します
※司馬懿がDEATH NOTEの影響下にある可能性を把握しています
※探知機で近づく人間を察知可能。馬謖が直接認識した相手は以後も場所の特定が可能。
※関興の声が本当に関興の霊だったか、失血で朦朧とした凌統が見た幻だったかは不明です
※馬謖の軽症は時間経過により自然治癒しました
※母犬(シロ)は死亡しました
@甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】
※荀イク討伐が目的ですが、弱った凌統を非武官しか居ない所に放置していくわけにもいかないと思っています。
※<<既視感を追う遊撃隊>>と一緒に居ます。
@呂布[洗脳、身体能力上昇、左肩から右脇腹にかけて深めの傷、右肩被弾、左耳破損]【DEATH NOTE】
※DEATH NOTEの影響下にあります。DEATH NOTEには劉備、関羽、張飛の名前が書かれています。
※DEATH NOTEの効果で上記三人の居場所が漠然と解りますが、今のところDEATH NOTEの影響に抵抗しているようです
※益州北部から東へ移動中。
@劉備【李典棍、塩胡椒入り麻袋×5】
※荊州北部。<<親子の面影+水鏡門下生>>を探して彷徨っています
@司馬懿 [洗脳、身体能力上昇]【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)香水、DEATH NOTE、陳宮の鞄、阿会喃の鞄】
※基本的にDEATH NOTEに記名された生存者3名を狙いに行きますが、邪魔をする者は排除しようとします。
※現在地は荊州北部。劉備が近くに居ることを感じています。
もうひとりのノートの持ち主に対し、漠然とした意思を伝える事ができるようです
- 39 名前:1/12:2007/04/14(土) 19:14:05
- 全ては、雨が洗い流してくれたのだろう。
ぬかるんだ大地に降り注ぐ木漏れ日は信じられないくらいに穏やかで、
この地で起こった惨劇などまるで夢か幻のように思えた。
だが注意深く見てみれば、転がっている倒木や流された家の残骸などに混じって
時折確かに、人の骸のパーツらしきものがある。
しかしそれらは廃材に紛れ照る陽の光の陰となって、
この世界を象徴するような奇妙なオブジェとなっていた。
そのオブジェに祈りを捧げる陳羣と、それに従う曹幹を人事のように眺め
郭嘉は自らの作業を再開した。
拾った広辞苑のページを慎重に一枚一枚はがす。
水で駄目になってしまった箇所もあるが、その厚みのおかげで
真ん中あたりのページはほぼ無事だった。
おそらく誰かの支給品だったのだろうその本はどうやら辞典のようだ。
きっと役に立つだろう。何の意味もないものが支給されるということはあるまい…多分。
だから、きっとこれにだって何か意味があるのだ。
そう思い込み、拾ったもう一冊の本を手に取る。
水に強いしっかりとした素材で出来ているらしいその本は、
多少ふやけてはいるものの中身は問題なく見ることが出来る。
- 40 名前:2/12:2007/04/14(土) 19:17:01
- ちろりと覗いた舌が、指に絡ませたとろりとした蜜を舐る。
男心をくすぐるコケティッシュな構図である…被写体が袁術でなければ。
袁術陛下写真集『はちみつ』。初回封入特典とやらで小さな本がついている。
その小冊子は完全に水を弾くらしい薄い素材に包まれていて、全く濡れていなかった。
『袁術陛下のすべて』と銘打たれたそれの封を開け、
げんなりとした表情で繰っていた郭嘉の表情が段々と真剣なものになっていく。
“…第一回ではお約束の死に様をばっちり披露し、
第二回はお色気満載、大胆な脱ぎっぷりを見せつけた袁術陛下…
…さて、今回はどんな活躍を見せてくれるのか……。”
自分は、正しかったのか。
それとも、間違っていたのか。
許チョの死体の傍らに立ち尽くしたまま、考えど、考えど、答えは出なかった。
朝日の昇る頃になって、ようやく考えることの愚かしさに気づいた。
…正しかろうが、間違っていようが、自分が許チョを殺したという事実は変わらないのだから。
夏侯惇はふらふらと歩き始めたが、
自分がどこを目指すのかという意識はあまりなかった。
- 41 名前:3/12:2007/04/14(土) 19:18:40
- 彼が目指すのはただ曹操の傍らであり、
その曹操の行方も解らぬ今、当てもなく彷徨うより他にどうしようもなかった。
許チョの血で汚れた自分に、孟徳の傍らに立つ資格があるのか?
自分自身への問いかけに答えは出なかった。
でもそれでもいい。
ただ一人、孟徳が生きるために自分は礎になればいいのだ。
そのために、許チョを斬った。全ては孟徳のために。
夏侯惇は押し寄せる罪の意識に蓋をして、許チョと同じ道を選んだ。
全ては、孟徳のために。
だから。
遠くにその男の顔を見た時、ああ殺さなければ、と思ったのだ。
全ては、孟徳のために。
…哀しいかな奉考、痛ましいかな奉考、惜しいかな奉考…。
郭奉考。
あいつは、孟徳を悲しませる。
再会が叶った後に再びあいつが死ぬようなことになれば、
あいつを二度失う悲しみに孟徳は打ちひしがれるだろう。
だから、殺さなければ。
孟徳を、悲しませないために。
許チョの血に濡れた大斧を引きずりながら、夏侯惇はふらふらと歩みを進める。
…全ては、孟徳のために。
異様なまでの寒気に郭嘉は身を震わせた。
憎悪に似た殺気が自分の肌を刺しているのだと解った。
本を仕舞い、じりじりと郭嘉は後ずさる。
- 42 名前:4/12:2007/04/14(土) 19:20:23
- 夏侯惇はゆっくりと近づいてくる。
彼が引きずる大斧が地面と奏でる不協和音に、
陳羣も弾かれたように我に返る。
「郭嘉殿!」
曹幹の手を握り叫んだ陳羣の声が、開幕の合図だった。
瓦礫の間を縫うようにしながら三人は走る。
もともと距離はあったし夏侯惇は大斧を振り上げ走っているのだが、
こちらも小さな曹幹を連れている時点で状況は五分、
さらに自分たちは文官で相手は歴戦の武官であるということを考えれば
圧倒的に郭嘉たちが不利だった。
要所要所で捲くように逃げてはいるが、
こちらが疲れ果て追いつかれるのも時間の問題だろう。
瓦礫の狭間に身を潜め曹幹を郭嘉に託し、陳羣は言った。
「行ってください、郭嘉殿」
郭嘉にとって、それは予想できた言葉だった。
三人そろって逃げきることは不可能だということも解っていた。
「…お前…、俺より生き延びてやるって啖呵切っただろうが」
解っているのに、そんなことを口走る自分が酷く無様だった。
「ええ」
光学迷彩スーツを広げ着込みながら、陳羣は淡々と答えた。
「生き延びましたよ。貴方より、三十年も長く」
曹幹の手を握る手に、自然と力がこもる。
- 43 名前:5/12:2007/04/14(土) 19:22:31
- 「…郭嘉殿。あの時逝った貴方も、さぞかし無念だったかもしれない。
でもね…、残された者のやり切れなさというのも、耐えがたいものがあるのですよ」
郭嘉の死。
それを契機に、全ては綻び始めたのかもしれない。
乱れた世を正す為にと、綺羅星の如き人材が曹操の元に集っていた。
しかし郭嘉の死によってぽっかりと出来てしまったしまった、隙間。
他の誰もそれを埋めることが出来ないのだと、皆が気づいてしまったのだ。
長江が炎で燃えたときに。
郭奉考が生きていれば!
そんな言葉が曹操から、そして皆から自然と口をついて出たときに―――。
小さな穴が堅牢な壁を崩す原因になることがあるように、
郭嘉の死によって出来た隙間は
最大の敵であった袁家の滅亡や赤壁の敗戦などさまざまな要因から広がり、
皆の中に少しずつ違和感を育んでいったのかもしれない。
目指していた所は同じだったはずなのに、
そこへ至る手段や考え方、物事の優先順位など、
互いの考えには様々なずれがあることに皆が気づいてしまった―――。
もはやかつてのようには語り合えなくなってしまった人々を次々に失い、
その度に何かを削ぎ落としていった陳羣。
- 44 名前:6/12:2007/04/14(土) 19:23:58
- 看取った人々が皆惜しんでいた男。
陳羣だって幾度思ったか知れない。
―――郭奉考が生きていれば!
しかしそんな思いは奥底に仕舞って陳羣は微笑んだ。
本心を隠すことはとても上手になったのだ。そう、彼が死んだ後に。
「郭嘉殿、先にさっさと逝ってしまわないで、たまには居残ってください」
貴方はいつも面倒な仕事はさぼって逃げてばかりだった。
けれど、たまにはしっかりやってください。
…生きていくというのは、とても、面倒なことだけれど。
そう言った陳羣の微笑はどこか悪戯めいていて、
年若い外見とは不釣り合いな苦さや深ささえ含んでいた。
郭嘉は何も言えなかった。
こんな陳羣は知らなかった。
含みのない、真っ直ぐな怒りを向ける陳羣しか知らなかった。
そんな陳羣を適当にあしらっていたのはずっと自分の方だったのに、
今こうして向かい合っていると自分のほうが子供じみている気がする。
郭嘉の知らない三十年が、ここにあった。
「曹幹様…。」
子供なりに何かを感じているのだろう。
曹幹の瞳は大きく見開かれ、不安に揺れている。
かけたい言葉は山ほどあった。
- 45 名前:7/12:2007/04/14(土) 19:25:52
- 父も兄も早くに亡くし、こんな遊戯に巻き込まれ、
ここでもまた兄を亡くして声を失うほどに傷ついたこの幼子がどうしようもなく哀れだった。
過去の光景と今までの惨状が思い起こされて、
不敬と知りつつも陳羣は曹幹を抱き締めることを止められなかった。
「…どうか…、…ご無事で…。」
せめて曹操様に、実の父親に会えるように。どうか。
陳羣は吹毛剣と閃光弾を引き替えて最後に、郭嘉に言った。
「頼みましたよ…奉考とうさま」
衣を纏った陳羣の姿が、見えなくなった。
閃光を背に郭嘉は走った。
曹幹を抱いて、微かに残る脇腹の痛みに追い立てられながら
郭嘉は陳羣の言葉を思い出す。
今朝だったか――ああ、今朝のことだというのにもう遠い昔のようだ――
曹幹が、郭嘉の見ていたリストを見ながら困惑していたのだ。
曹幹は鉛筆でその紙にとうさま、と書いて、
リストに書かれた曹丕と曹操の名を指し、首を傾げたのだ。
郭嘉にはその意味がさっぱり解らなかったが、
陳羣はしばし考え込んだ後に、こう言った。
- 46 名前:8/12:2007/04/14(土) 19:27:59
- 「…良いのではありませんか?
父と敬い、誇りたいと思う立派な方がたくさんいるというのは、
素晴らしいことではありませんか」
曹幹はそれを聞いて、本当に嬉しそうに笑ったのだ。
多分曹操と曹丕、どちらが本当の“とうさま”なのかと聞きたかったのではないかと陳羣は言った。
何故だかは解らないが、曹幹は決して物覚えの悪い子というわけではなかったのに
兄の曹丕を父と呼ぶことを止めなかったのだそうだ。
実の父である曹操の名を覚えていたのか、
或いは曹丕の死の間際にでも聞かされたのかは解らないが
あれほど曹丕をとうさま、とうさまと慕う曹幹の気持ちを無碍には出来なかった、と。
頼みましたよ、奉考とうさま。
陳羣は言った。
つまり、このちびが誇れるくらい立派に親代わりやれって事かよ。
本当の父親、曹操様に会わせてやるまで。
回りくどい言い回し覚えやがって畜生。文若に似やがったな。
陳羣なら陳羣らしく、真面目にやって下さい郭嘉殿!とかなんとか
ぎゃーぎゃー喚いてりゃいいんだよ馬鹿野郎。
このちび意外と重てぇよ。何だよ、そんなに唇噛んで。
ガキならガキらしく、我慢しないでベソかきゃいいじゃねーかよ。
- 47 名前:9/12:2007/04/14(土) 19:29:31
- そもそも俺はろくな親父じゃなかったんだぞ。
滅多に家に帰らなかったし、奕の顔すら思い出せない…
…あぁなんか、赤ん坊の頃に顔見てすげぇブサイクだなって思ったのは覚えてる。
そしたら嫁さん、奕は俺にそっくりだって言いやがったんだよな確か。
赤ん坊の顔なんか見分けつかねーよ。
身体もぐにゃぐにゃしてて、抱くのがすごく怖かった。
結局俺は奕を抱いたんだったか。抱かなかったのか……。
曹幹を抱き、しかしどこか曹幹に縋りつくようにしながら郭嘉はただ、駆けた。
陳羣は走った。
閃光弾を投げた時に確信した。
自分はこの土地ではなく、目映い光に何かを揺さぶられたのだ。
しかし今はその感覚について考察している余裕はなかった。
熱い。
身体中が、熱い。
衣の内側が焼けるように熱くなりつつあった。
生きながら身体を焼かれる、まさに地獄。
身体がバラバラになる、手足がもがれる、呼吸が苦しい。
絶叫を、苦痛にのたうち回ることを堪えながら
それでも陳羣はもがくように無様に走る。もう走れない。それでも走る。
自分はもう死ぬだろう。
ならばせめて、二人が逃げる時間くらいは稼がなくては。
- 48 名前:10/12:2007/04/14(土) 19:32:32
- 姿を消したまま、しかしその代償にその身を焼かれながら
陳羣の手がついに夏侯惇の首輪へと伸びる。
―――あなたは、人を殺す覚悟がありますか?
酷い頭痛と息苦しさの中、何故か賈クの言葉が蘇った。
「…そこかッ!」
突然の閃光は夏侯惇の不意を突いたが、しかしそれだけだった。
光は未だ夏侯惇の目を灼いている。
しかし彼はもともと視覚の不利を鋭敏な感覚で補っていたのだ。
封じられた視界はその鋭敏な感覚を蘇らせる鍵になった。
目はもう大分見えている。しかし人の姿は見えない。
だがその感覚は彼に人の存在を告げている。
だから例え姿が見えなくとも、感覚の告げるままに大斧を振り下ろした。
「………!!」
声にならない叫び。
陳羣の手は結局、夏侯惇の首輪には届かなかった。
賈クの言葉に動揺したのか、あまりの痛み故に上手く身体を動かせなかったのかは解らない。
きっと負った傷が深すぎるのだろう。
今は息苦しさは感じるものの痛みはすっかり消え失せていて、
陳羣は自分を見下ろす夏侯惇をとても静かな気持ちで見つめることが出来た。
夏侯惇はあまりに無惨な陳羣の姿に動揺していた。
そうしたのは、自分であるというのに。
- 49 名前:11/12 代理:2007/04/14(土) 20:37:14
- どういう仕掛けかは解らないが、身に纏っている衣で姿を隠していたようで
肩から腰に向かって斜めに走る傷から衣がめくれ上がり、陳羣の姿が見えるようになった。
酷く焼け爛れた肌も、臓物の見える傷口も、不思議なほど穏やかに澄んだ瞳も。
勝者は夏侯惇であるはずなのに、苦しんでいるのもまた彼のほうであった。
許チョを殺した時は、互いに死力を尽くした結果だった。
同じ武人同士、通ずるところもあった。
だが。これはただの虐殺だ。
陳羣は陳羣なりに力を尽くしたのかもしれないが、
それでも幼子を斬ったような嫌な感覚は拭えなかった。
それでも、それでも俺は、
「…俺は…、殺すのだ。全ては…孟徳の、ために、」
夏侯惇のその言葉には揺らぎがあった。
そのとき微かな囁きが、さらに夏侯惇を揺さぶった。
「殺しては…、いけません」
夏侯惇は陳羣がまだ喋れたこと自体に驚いていた。
「…貴方は、間違っている…。
殺しては、いけません。…曹操様のためを、思う、なら」
なぜなら、という言葉は声にならず、ただ唇が動いただけだった。
「…あの方ほど、人を、才を愛した方は、いなかった…。
だから、人を、殺しては、いけない」
- 50 名前:12/12 代理:2007/04/14(土) 20:38:24
- この言葉が夏侯惇に届くのかは解らない。
そもそも自分がきちんと喋れているのかすら怪しい。
だが、自分が正しいと思ったことを言おうと思った。
郭嘉のいたあの頃のように。
…この世界は、間違っている!
ああ、確かにそうだった。夏侯惇は思う。
あいつほど人を求め、人を愛し、人を惜しんだ奴はいなかった。
例え何かを失っても、その荒ぶる悲しみを詩に託し、さらなる高みを目指していた。
「だが…俺は既に許チョを、それに、お前を、」
夏侯惇の呟きに、陳羣は掠れた声で、しかしはっきりと答えた。
「あの方が…貴方を、許さなかったことは、なかった」
陳羣の言葉は段々譫言めいてきていて、良く聞き取れない。
もどかしげに陳羣は言葉を続ける。
「伝えて…郭嘉殿に…。…曹幹様…。首輪…。多分、熱で、」
陳羣がどうにか指さした自らの首輪。見れば確かに、首輪が緩んでいる。
命の灯が尽きるその瞬間まで、陳羣は夏侯惇に真っ直ぐに訴え続けた。
「わたしたちは、繰り返してきた…殺し合いを…。
戦って…。世界の…謎、を…。」
【陳羣 死亡確認】
<<忘れ形見と奉考とうさま/2名>>
郭嘉[左脇腹負傷]【広辞苑(一部欠損)、袁術陛下写真集『はちみつ』(初回限定版)、吹毛剣】
曹幹[失声症]【なし】
※荊州方面へ逃走。
※光学迷彩スーツは壊れました。
※袁術陛下写真集『はちみつ』の初回限定特典の小冊子には、過去に行われたバトルロワイヤルの記述があるようです。
@夏侯惇【金属バット、大斧】
※悩みつつも郭嘉を追います。
- 51 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/04/27(金) 12:32:03
- 兵卒が保守
- 52 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/02(水) 15:29:28
- GW保守
- 53 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/03(木) 03:53:42
- ふと空を見上げれば、既に薄暗い空に瞬く星が
昨晩よりも増えているように思えた。
ほっしゅ
- 54 名前:磨耗していくもの1/4:2007/05/05(土) 02:08:58
- 「…やはり、陸抗殿という方はいらっしゃいませんわね」
馬謖達と別れた後、記憶にひっかかる物を感じた蔡文姫は、参加者リストを確認していた。
「多分…正しくは…この陸遜、殿でしょうか」
「陸遜…」
劉封の顔が険しくなる。
「劉封殿?」
「…関羽殿を処刑した一派の者です」
そして、その一派は自分の死のきっかけを作り出したともいえる。
劉封は、自分の死は咎として受け入れてはいたが、義理とはいえ叔父を殺したという点には割り切れない思いを抱いていた。
「それじゃ、あっちが気を使ったんだろうね。こんな状況で気が回せるとは、結構なことだ」
ホウ統がのんびりと石榴を摘みながら言った。
「しかし季節感メチャクチャだな。この世界はどうなってんだか」
諸葛亮も石榴を眺めながら続けた。
この世界で過ごして数日が経つが、野菜、果物、獲れる魚や鳥の種類は実に多彩だった。
また、意外に容易く手に入れることが出来る。
「案外極楽なんじゃないか」
「…まあ、こんな遊戯がなければそうかもしれませんね」
劉封は苦笑い。
生きていた世界でも、戦いの日々だった。
死ぬか生きるか、殺すか殺されるかの日々に変わりは無い。
蜀は収穫に乏しい国であった。ならば今の地の方が、よほど良いのではないだろうか。
ため息をつく。…こんなことを考えるまでに感覚が麻痺してしまったんだろうか。
「劉封殿?」
蔡文姫が心配そうな顔で覗き込んでくる。
気まずくて、曖昧な笑顔で返した。
「…さて、じゃあちょっと"弟子"に会いに行くか」
ぷっ、と石榴の種を吹き出し、諸葛亮が切り出した。
- 55 名前:磨耗していくもの2/4:2007/05/05(土) 02:10:01
- 陸遜達の言っていた地点は意外に近かった。
もう少し歩けば洞窟が見えるはずだ。見えるはずなのだが。
「……」
「…うーん…」
「…これは…」
「…血の、臭いですね…」
近づけば近づくほど臭ってくるそれに、4人は顔を見合わせた。
「…人の気配はないんですけどね…」
「いや〜な予感が、するねえ…」
ホウ統が顔をしかめた。
その間を、草を掻き分け諸葛亮が進む。
「お嬢さんと士元はここらで待っててくれ。俺と劉封殿で見て来る」
「え、俺ですか」
「あっちにいる奴ら、あんたしかわかんねーだろ」
とはいえ劉封も司馬懿や姜維はわからず、関興も幼い頃を一度か二度見ただけなのだが…。
しかし肩を怒らせ進む諸葛亮の、有無を言わせぬ勢いには逆らえず、しぶしぶ後に続いていった。
- 56 名前:磨耗していくもの3/4:2007/05/05(土) 02:10:35
- 引きちぎられた草、飛び散る血飛沫。かきむしられた地面。
…絶命の間までにもがき苦しんだあとなのだろう。
そこにあったのは、頭蓋が半分瞑れた死体と、
目が瞑れ――瞑れた目からは脳漿のようなものが涙のように流れ出ていた――死体。
「…一人、たりねえな」
あたりを見回した諸葛亮がつぶやく。
この事態にさすがといえばいいのかどうか…劉封は顔を顰めた。
おびただしい血の海に倒れる死体に、諸葛亮は何の感慨もなく近づいた。
「…俺の弟子ってどっちだったんだろうなあ」
劉封にも見分けが付かない。何せどちらの顔も原型を留めていない。
「こっちだといいな。多分これなら即死だったろう」
そう言って、顔がつぶれた死体の手を胸できちんと組ませてやった。
…少しでも面識がある分、これが関興だと思うと胸が痛むんですが…。
苦しみもがいた末、絶命したであろう死体を前に劉封は嘆息をついたが、それは黙っておいた。
「ま…考えることは色々あるが」
残る一人はどこへ行ったのか。それは誰なのか。仲間だったはずの3人になにがあったのか。
これを陸遜たちに知らせるべきかどうか。
「…とりあえずこいつら埋めてやろうか」
- 57 名前:磨耗していくもの4/4:2007/05/05(土) 02:11:26
- 「…気を使ってくださったんですね」
残された蔡文姫がうつむいてつぶやく。
「そりゃ、女性に死体を見せるわけにはいけないだろうしなぁ」
ホウ統ははっきりと"死体"といった。そしてそれはほぼ間違いないだろう。
「私…皆さんに迷惑をかけてばかりで」
そっと首輪に手を当て、蔡文姫は目を閉じた。
「いや、あんたはいるだけで充分役に立ってるよ」
「え?」
ホウ統の言葉に顔をあげる。
「こんな世界だ、色んなもんが磨り減ってく。気力とか、体力とか、心とか」
そう言ってホウ統は、蔡文姫に倣って首輪に指をあてた。
「そんな中で女子供にも配慮できなくなったら、男として…人として終りだ」
蔡文姫と目を合わせると、ホウ統は目尻を緩ませる。
「あんたは防波堤なんだよ。私たちが"人間"でいるための」
<<親子の面影+水鏡門下生/4名>>
蔡文姫[首輪が緩んでます・何らかの機能不全]【塩胡椒入り麻袋×5 石榴x4】
劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】
諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
※現在地は漢中より少し南の洞窟、引き続き劉備を捜索。
- 58 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/12(土) 14:50:48
- 随所に備え付けられたスピーカーが、
非情な声の訪れをささやかに待ち構えていた。
ほっしゅ
- 59 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/13(日) 03:05:33
- 厨二保守
- 60 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/15(火) 11:20:37
- 放送マダー?(゚∀゚)保守
- 61 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/18(金) 15:34:54
- なかなか落ちなくなったね
- 62 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/20(日) 19:32:03
- そろそろ放送入れないか?
- 63 名前:無名武将@お腹せっぷく:2007/05/24(木) 09:43:47
- 何日で落ちるのかな
- 64 名前:Gift 1/6:2007/05/24(木) 22:48:46
- 白い手がぷちりと音を立て、青い草を引き千切る。
効能を持つのは根元近く。
赤い筋が入った茎、ふわりと柔らかな毛を撫でる。
溜息と雨の雫が緑の葉をこぼれていった。
* * *
「……そこに居るのは誰だ! 出て来い!」
厳しい誰何の声に、荀イクは優しげな笑みを貼り付ける。
アサルトライフルを握り締め、一歩を踏み出し――
何が起こったのか、荀イクには判らなかった。
判ったのは強い衝撃、息の詰まる感覚、己が仰向けに倒れた事、胸の上に乗せられた足、そして顔の真上で光る刃。
光の如き速さで飛び掛った武官らしき男に一瞬で打ち倒され刀を奪われたと悟ったのは、数瞬の後だった。
「貴様、何者だ」
見下ろす武人の冷たい声音。凍る空気。絶体絶命の危機に、荀イクはしかし微笑んだ。
「私は貴方がたに危害を加える意思はありません。敵ではありません」
穏やかな、安らぎを感じさせるような微笑み。それは荀イクの武器でもある。
しかし武官はぴくりと眉を動かしたのみで、警戒を緩める様子を微塵も見せない。
それどころか刃をじわりと動かし、その切っ先を首へと――
- 65 名前:Gift 2/6:2007/05/24(木) 22:51:29
- 「なあぁにやってるんですか阿蒙さんー!!」
武官の背に全力で体当たりする男の影。
刃が勢い良くぶれ、荀イクの頚動脈すれすれを走り抜けて耳元の地面に刺さった。
沈黙の数瞬に、たらりと嫌な汗が流れ落ちる。続いて首の皮膚から、ちいさな血の玉がそれを追った。
「あっ……あ、あ、あほかあぁぁァ!」
武官――阿蒙、こと呂蒙は左足を軸にくるりと身を翻して旋回。踏み込む右足に妙な感触を覚えるが、とりあえず気にしない。
その場から力いっぱい飛翔し、振り上げた刀は逆光にきらめく。
全力で日本刀の峰を叩きつけられそうになった青年が奇怪な悲鳴を上げてカサカサと転がった。
その背後では踏み込む体重を股間にかけられた荀イクがひとり悶絶している。
「あほじゃないですよ! こんな弱そうな人にいきなり襲い掛かる阿蒙さんこそ阿蒙でしょ! この阿蒙!」
「黙れ阿機! 刃物持ってる人間にいたずらしちゃいけませんとママに習わなかったのか!」
陸機の頬をぐにゅーとひっぱって説教を始める呂蒙とばたばた暴れる陸機。
弱そうで悪かったですねと心の中で毒づく余裕も無く、泡を吹いて地面に爪痕を付ける荀イク。
うーんうーんと熱に魘されている、意識が無いのが多分幸いな曹操。
割合地獄絵図っぽい光景が、そこに現出していた。
- 66 名前:Gift 3/6:2007/05/24(木) 22:53:09
-
* * *
……私は、一体どうしたいのだろう?
薬草を引き千切りながら荀イクは自問自答する。
決まっています。曹操様を殺したいのです。そしてその首級を、帝にお捧げしたい。
毒草をつつき、鮮やかな花を撫でる。
陸機、と名乗った若い男は、全く問題ないだろう。
私の名乗りに眼をきらめかせ、貴方があの王佐の才の、と無邪気に握手まで求めてきた。
高名な詩人だったと言うが、どうも浮世離れしている感がある。
肉体的にも脆弱そうだ。すぐにでも殺せるだろう。
武官と思った男は呂蒙。猪武者が知性を磨き学を付けた、という話は何処かで聞いたことがあった。
……こちらは厄介だ。猪武者なら話は簡単だが、武があり頭も回るというのは困る。
そしてどうも私は疑われているらしい。
私の名は知っているようだが、それに気を許すでもなく、こちらに絶えず冷たい殺気を投げかけてくる。
不審な動きがあれば殺す。言葉よりも雄弁に、彼に取り上げられた武器がそう語っていた。
そして……。
そして、曹操様。
熱に浮かされ弱々しく呻き声を漏らすだけの存在は、脳裏に描いた奸雄とは似ても似つかぬ姿に見えた。
ぽたり、と雨の雫が頬に落ちる。
いつの間にか太陽は隠れ、暗い雲が天を覆っていた。
- 67 名前:Gift 4/6:2007/05/24(木) 22:54:48
-
『文若、機嫌が悪そうだな。雨は、嫌いか?』
『いいえ。雨は穀物を育み、大地を潤す有用な天の恵みです』
宮殿でいつか交わした会話を、荀イクは思い出す。
『そうか』
『……うそです。本当は、嫌いです。雨の日は体がべたべたするし、暗くて気分が沈みます。
文官たちの仕事の能率も落ちるし、兵もだらけます』
そう言うと何が嬉しいのか、曹操様はくつくつと笑った。
『だがな、文若。雨の止んだ後の空は、とても綺麗に星が出るぞ』
『星……ですか』
『あぁ。潤った空気は、星の光を強くする』
あらゆる能力に恵まれた奸雄は、詩にもまた天才を持っていた。
そのせいか時々、妙に感傷的な事を言う。
『お前にも見せてやりたいな。
この雨が夜までにやんだら、星を肴に杯を交わそうではないか、文若?』
そう笑った彼の目は、まるで少年のように無邪気だった。
私はあの夜、星を見たのだろうか?
……いくら記憶の糸を手繰っても、思い出せなかった。
- 68 名前:Gift 5/6:2007/05/24(木) 22:56:38
- ちらり、と後ろに視線をやる。
あの後、いくらか薬草の知識があると言った自分に、呂蒙は熱冷ましの薬草採集を命じた。言葉の上では依頼の形であったが。
呂蒙はいつでも私を撃てる場所で、不機嫌にこちらを見張っている。
……全く、勘がいいことだ。殺気を隠しもしないあたりが、武官上がりの限界ではあろうが。
ぷちり。薬草を根元からむしりとる。
ぷちり。毒草をこっそりむしりとる。
見張っていたところで、私が曹操様に差し上げるのが、毒か薬かも分からないだろうに。
いや。薬草であろうと、量を違えれば毒となる。
口の端に笑みを滲ませた。
どうやって殺しましょう?
どんな毒をさし上げましょう?
苦しい毒? 幻覚の毒? 醜く爛れる毒もいいですね。
あぁけどやはり、引き裂いて真っ赤にするのも悪くない。
いずれにせよ、まずは意識を回復させなければ。
何も知らないまま幸せに逝くなんて、決して許しはいたしません。
取り上げられずに残された箱が、懐で音を立てた。
綺麗な玉細工が施された箱だ。
道中何度も何度も叩き壊して捨ててしまおうとして、それでもまだここにある。
懐から取り出し、からっぽのそれを開けた。
空の中身を見るたび嫌な気分になるが、何かを入れることも出来ずにいる。
……いっそこれに毒草を入れて曹操様に贈りましょうか。
いつかの私の心を、少しは分かってくれるかもしれません。
自嘲気味に溜息をついた。
心のうちを埋め尽くすのは、既に帝への忠義とは別のものに摩り替わっていた。
- 69 名前:Gift 6/6:2007/05/24(木) 22:58:22
- <<ふたりの詩人とひとりのアモーと王佐の才/4名>>
曹操[高熱、意識混濁]【チロルチョコ(残り65個)】
陸機【液体ムヒ】
呂蒙【捻りはちまき、日本刀、ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)】
荀イク[洗脳されている?]【防弾チョッキ、空き箱、薬草、毒草】
※現在地桂陽。小雨が降り始めたようです。
※荀イクは曹操(と残り二人)を殺す機会を伺っています。額の切り傷は自然治癒しました
※呂蒙は荀イクを警戒しています
※Gift:[英] 贈り物 [独] 毒
- 70 名前:業務連絡:2007/05/27(日) 22:17:31
- 観戦雑談スレの次スレが立ちました
三国志バトルロワイアル観戦雑談スレ 2
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/sports/29695/1180199236/
- 168 名前:業務連絡 ◆/Hail3FN.g :2007/06/24(日) 01:19:49
- ■放送
【生存者・パーティの部】
<<親子の面影+水鏡門下生/4名>>
蔡文姫[首輪が緩んでます・何らかの機能不全]【塩胡椒入り麻袋×5 石榴x4】
劉封【ボウガン・矢×20、塩胡椒入り麻袋×5】
ホウ統【ワイヤーギミック搭載手袋、塩胡椒入り麻袋×5】
諸葛亮【諸葛亮伝(色んな諸葛亮が満載。諸葛亮と直接関係ない事柄については書かれていない)】
<<忘れ形見と奉考とうさま/2名>>
郭嘉[左脇腹負傷]【広辞苑(一部欠損)、袁術陛下写真集『はちみつ』(初回限定版)、吹毛剣】
曹幹【なし】
<<迷走する捜索隊/3名>>
袁紹【妖刀村正】
曹彰【双剣の片方(やや刃こぼれ)、ごむ風船】
魯粛【圧切長谷部】
<<既視感を追う遊撃隊/3名>>
凌統[満身創痍、気絶]【関羽の青龍偃月刀、銃剣、魔法のステッキミョルニル】
馬謖【探知機、諸葛亮の書き付け(未開封美品)×2】
陸遜【真紅の花飾り、P90(弾倉残り×2)、ジッポライター、仔犬(チビ)】
<<楊儀くんと子義マンセー/3名>>
太史慈[スタンド使い]【ジョジョの奇妙な冒険全巻】
李典【SPAS12】
楊儀[ちょっと欝]【MDウォークマン】
- 169 名前:業務連絡 ◆/Hail3FN.g :2007/06/24(日) 01:21:07
- 【生存者・パーティの部 1/2(参加者非公開)】
<< ふたりの詩人とひとりのアモーと王佐の才/4名>>
曹操[高熱、意識混濁]【チロルチョコ(残り65個)】
陸機【液体ムヒ】
呂蒙【捻りはちまき、日本刀、ガリルAR(ワイヤーカッターと栓抜きつきのアサルトライフル)】
荀イク[洗脳されている?]【防弾チョッキ、空き箱、薬草、毒草】
<<皇帝とナース/2名>>
劉禅【バナナ半分、モーニングスター、オルゴール、吹き矢(矢9本)、救急箱、閃光弾×2】
趙雲【ナース服、化粧品】
<<どさくさまぎれに姫と騎士/2名>>
魏延【ハルバード(少々溶解)、鳥のヒナ(5羽)】
孫尚香[切り傷]【シャンプー(残り26回分)、薬草、ちろるちょこきなこ味】
8組23名
- 170 名前:業務連絡 ◆/Hail3FN.g :2007/06/24(日) 01:22:22
- 【生存者・ピンユニットの部(参加者非公開)】
@夏侯惇【金属バット、大斧】
@祝融【偽造トカレフ、刺身包丁】
@曹熊[錯乱]【ベレッタM92F、PSP】
@劉備【李典棍、塩胡椒入り麻袋×5】
@潘璋[右腕に深い傷]【備前長船】
@関羽[全身打撲(治癒中)]【方天画戟、猛毒付き諸葛弩(残り矢17本)・手榴弾×3】
@張飛[腹部強打、激しい疲労]【鉈】
@甘寧【シグ・ザウエルP228、天叢雲剣、コルト・ガバメント、点穴針、諸葛亮の衣装】
@張遼[爆睡中]【歯翼月牙刀、山刀(刃こぼれ、持ち手下部破損)、煙幕弾×3】
@司馬懿【赤外線ゴーグル、付け髭、RPG-7(あと4発)、香水、陳宮の鞄、阿会喃の鞄、DEATH NOTE】
@諸葛瑾[頭にたんこぶ]【なし】
@呂布[洗脳、身体能力上昇]【DEATH NOTE】
12名
以上 計35名生存
- 171 名前:業務連絡 ◆/Hail3FN.g :2007/06/24(日) 01:24:26
- 【死亡者(参加者公開)】
(☆はテンプレート以降の死亡者、★は前回放送以降の死亡者 両方とも放送に含みます)
≪あ行≫9名
阿会喃 于禁 王平 袁煕 閻行 袁尚 袁術 袁譚 王累
≪か行≫25名
夏侯楙 賈ク 夏侯淵 華雄 郭 楽進 郭図 夏侯威 夏侯和 夏侯恵
夏侯覇 韓玄 ★関興 韓遂 顔良 ★姜維 許チョ 許攸 虞翻 刑道栄
高順 侯選 黄忠 孔融 胡車児
≪さ行≫20名
司馬孚 朱桓 周瑜 周泰 朱然 朱霊 淳于瓊 荀攸 徐晃 徐庶 辛評
成宜 曹洪
曹仁 曹植 曹丕 沮授 孫堅 孫権 孫策
≪た行≫18名(+1)
張燕 張角 張虎 ★張コウ 張横 張繍 張任 貂蝉 陳宮 ☆陳羣 陳到
程銀 禰衡 程普 典韋 田疇 董卓 董超&董衡
≪は行≫6名
裴元紹 馬玩 ★馬岱 馬忠 ★馬超 文醜
≪ま行≫3名
満寵、孟獲、孟達
≪や行≫2名
楊秋、楊阜
≪ら行≫7名
李堪 李儒 劉璋 劉ェ 廖化 梁興 呂範
計90名
- 172 名前:業務連絡 ◆/Hail3FN.g :2007/06/24(日) 01:29:54
- 【禁止エリア(参加者公開)】
≪新規発動≫并州・楊州
※次回発動予定はありません
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
じり……じりじり……
「あーあーあー……テス、テス」
献帝の部下らしき者の声がスピーカーを揺らす。その背後が妙に騒がしいように思える。
最早献帝御自ら喋るのは面倒なのだろうか。
新たな死亡者が順次読み上げられる。そして禁止エリアの発動を告げた。
「放送は以上です。次の禁止エリアは今のところ未定です」
ぶつっ。
用件だけ告げて、唐突に切られた。
全部
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